『Wonder Future』 全曲解説 #11
カテゴリ:全曲解説

 

 全曲解説は最終回です。ツアーが始まる前に終わらせたかったのですけれども、こんなに時間がかかってしまいました。質問を送ってくれた皆さん、ありがとうございます。それでは、よろしくどうぞ。

 

 

ANDY

オペラグラスに限った話ではないのですが今作のプロデュースはゴッチさん名義になっていますがアルバムを通してゴッチさんがアレンジのイニシアチブを取ったということなのでしょうか?(もちろんプロデューサーが全てのアレンジを考えるとは思ってないです)

 

プロデューサーって、強権的な役割ではないんですよね。笑。もちろん、それぞれ現場によってやり方に違いがあるとは思いますが。少なくとも僕は暴君ではありません。笑。僕のプロデューサーとしての役割は、ファシリテーター(合意形成を促進するひと)という感じでしょうか。メンバーそれぞれにやりたいことや湧き上がったイメージなどがありますから、それを上手くまとめていく、そしてバンドとしての判断についての責任を持つというのが主な仕事です。

 

一方で全体の方向性も決めています。例えば、Foo Fightersのスタジオで録音するだとか、マスタリングをどこでやるのかだとか、ミックスの方向性と実際の微調整だとか。演奏テイクの選定というディレクションの作業もしています。一人二役なので、ちょっと大変でしたけれども。笑。

 

以下、僕のプロデュース/ディレクションの音源を列挙しておきます。それぞれの楽曲が素晴らしいのは、それぞれのアーティストが素晴らしいからです。僕は手を添えてるくらいのもので。

 

えーと、仕事くださーい。笑。

 

 

 

 

 

 

 

 




たろべぇ@AKG戸田・横アリ感動

ご自身でもセンスレス以来の展開の多い(激しい)曲と言われてましたが、4人での作曲だとお互いの良い(譲れない)アイデアを取り入れて結果そうなるケースは多いんですか?因みに自分はセンスレスもオペラグラスも大好きです!

 

「センスレス」と「オペラグラス」は確かに展開が多いのですが、作り方としてはだいぶ違いがあります。

 

「センスレス」は展開し続けていくことを目的としてアレンジを進めていたんです。だから、元のメインのフレーズに戻らないですよね。ずっと脱線し続けていくようなイメージです。譲れないフレーズを死守するみたいな感じではなくて、どんどん新しい展開を探していくようなセッションでした。

 

翻って「オペラグラス」は展開する部分(「覗きこんで〜」からのパート)を挿入することで、結果的に展開が多くなったという感じですね。こちらはイントロのパターンをどうしてもキヨシと建さんが使いたいということだったんですね。でも、僕はこの曲のイントロパターンが「なんかダサい」と思っていました。このままだと(自分が思うところの)ダサい曲になってしまうので、だったら豪快に脱線するパートを作って、むしろ「なんか変」みたいなところまで持っていってしまえば、自分としてもこの曲を愛せるかなと思いまして。笑。

 

 

めい

全曲解説、毎回とても面白かったです!オペラグラスに限らずの質問になってしまうのですが、作曲のクレジットがメンバー全員のときに、表記をバンド名ではなく個人名にしているのには何かこだわりがあるのでしょうか?

 

著作権法的な問題です。なんとバンド名を採用するよりも個人名で登録したほうが保護期間が長いんです。個人名だと死後50年。団体名だと公表後50年。死んだら印税を受け取ることはできないので、僕としてはどちらでも構わないのですが、話し合って、このかたちを採用しています。笑。でも、まあ、本人が死んだあとも著作権が保護されるのってなんのため?っていう疑問もありますけれども。過去の曲とか、どんどんパブリックドメインにしていかないと、文化って豊かにならないはずですから。

 

アメリカではマービン・ゲイの曲に雰囲気が似てるっていうことで、ファレル・ウィリアムスが超高額の訴訟を遺族から起こされて、敗訴するなんてことがおきました。尊敬の念を表すオマージュとして雰囲気を寄せたとしても、それが「盗作だ!」となってしまうと、表現者は萎縮します。で、そういうオマージュとか引用って音楽や文化にとってとても重要なんです。学問で言えば、他の学術書を引用しない論文ってほぼないと思うんです。それは音楽だって同じなんですけれども。この話はまた、どこかでちゃんと時間をかけて語ってみたい問題のひとつです。

 

音楽家を護るのが著作権ですが、苦しめるのも著作権ということになりかねない。そんな時代です。だいぶ脱線しましたけれども、権利の問題はとても難しいです。

 

著作権情報センター

http://www.cric.or.jp/qa/hajime/hajime3.html

 

 

⊿mmm.

覗き込んで〜劇場の外へ駆け出して行ったんだまで音の雰囲気が変わっていて、ステージに立つ誰かが、観ている人に投げかけて聴かせているという情景が浮かびました。詞も曲も大好きな部分です◎この部分の作曲はゴッチのアイデアですか?

 

前述した通り、この部分は丸ごと僕のアイデアです。とはいえ、メンバーの協力があって完成しましたけれど。

 

ここだけ別の風景が挿入されますよね。場面が劇場に変わる。それによって、このパートの後で鳴らされるBメロとサビの感じ方がガラッと変わります。イメージが広がるというか。まったく同じことを演奏しているだけなんですけれども。面白いですよね。



ひー

後藤さんはオペラグラスのギターリフの良さがわからないと雑誌でディスっていましたが、個人的にはビートルズのAnd Your Bird  Can Sing(リボルバー収録ですね)のギターリフを彷彿して大好きです。ずばり後藤さんが嫌いな理由を教えてください。

 

「And Your Bird Can Sing」はフェイバリットソングのひとつですけれども(ジョン・レノンは歌詞が気持ち悪いと言っていました。笑)、彷彿とさせますかね。あの曲はギターリフを二本のギターで奏でているところが肝だと思うのですが。笑。

 

 

で、嫌いではないです。どこがいいのかわからないってだけで。笑。自分たちの曲の魅力を、作者が全部把握している必要なんてないし、それは無理だとも思うんですよね。逆によくわからない部分があるなんて、素敵なことだと思います。あんまり好きではない理由は、なんとなく、です。なんかムズムズするんです。笑。

 

 

ふぐたん

オペラグラスは、力強く前に進んでいく勇気を貰った曲です。3回目のカーテンコール〜の所ではなぜか泣きそうになります。締め括りのEの音、最高です!唐突ですがアメリカで録音作業する中で珍事件の様な事があったら教えて下さい!

 

建さんの誕生日の日に、スタジオのある100m四方のブロックだけが停電になったんです。そんなことって普通ないと思うんですけれども。笑。スタジオのスタッフも「こんなこと初めてだ」と言っていました。

 

そして、その夜、寝ていた僕の部屋のドアを酔っ払いが口汚い言葉とともに激しくノックするという事件もありました。いやぁ、肝を冷やしましたよ。深夜二時くらいだったと思います。その頃、建さんはドアを開けっ放しで僕の真上の部屋で爆睡していたんですけれども。笑。テラスハウス的な構造のホテルだったので、なんで建さんとこじゃなくて俺のところなんだよ!と思いましたけれども。持っている運の強さが違いますね。笑。

 

 

koto

最後なのでアルバムのトータル時間について質問です。一曲一曲の完成度を上げながら、アルバム全体の長さも同時に計算しているのでしょうか? Wonder Future は短すぎず長すぎず、日常生活の中に馴染む長さで聴き易いです

 

アルバムのトータルタイムはとても気にしています。理想は40〜50分くらいですかね。一時間以上あるアルバムって通して聴くのが難しくないですか? 僕はちょっと長いなって思ってしまいます。

 

あとはメディアとの親和性もあって、あまり長いアルバムはレコードにするときに音が劣化します。劣化を避けるために、二枚組とかにする必要がでてきてしまうんですね。値段もあがってしまう。レコードでリリースすることを考えると、自ずと収録時間に制限がでてきます。

 

曲がたくさん入っていたほうがお得、みたいな考え方もあるのかもしれないですけれども、僕はこのくらいの長さの作品のほうが、まとまりを感じやすいですね。収集して聴き通すことができるというか。

 

それぞれの曲を作っているときはトータルタイムについては考えませんけれども、曲順をまとめる段階では、もちろん意識しますね。

 

 

いち( °д°)

更に調子をこぎまして… 街頭のシグナルは10番目に歌詞を書いたとの事ですが、最後に書いたのはこの曲でしょうか?それともごっちいわく〆に合ったWonder Futureでしょうか?それとも…他の曲でしょうか?

 

最後に歌詞を書いたのは「オペラグラス」です。歌詞を書いた順に曲を並べると、

 

01.Standerd/スタンダード

02.Caterpiller/芋虫

03.Eternal Sunshine/永遠の陽光

04.Wonder Future_ワンダーフューチャー

05.Little Lennon/小さなレノン

06.Easter/復活祭

07.Winner and Loser/勝者と敗者

08.Prisoner in a Frame/額の中の囚人

09.Planet of The Apes/猿の惑星

10.Signal on the Street/街頭のシグナル

11.Opera Glasses/オペラグラス

 

という並びになります。

 

サナゲ

全曲解説、凄く楽しかったです!WonderFutureのバンドスコアも発売になるそうですが、私はコピーするならこのオペラグラスが最難関の様な気がします。どの曲も素敵ですが、ゴッチさんがコピーバンドにお勧めする曲はありますか?

 

アジカンをコピーできるくらいの楽器演奏力があるのならば、コピーをやめて自分たちで曲を作って欲しいなぁなんて、思います。10代の子たちは特に。あとはAとかEとかのスリーコードでブルースセッションしたりだとか。コピーバンドが楽しくって仕方ないって場合には、それを止めることは誰にもできないんですけれども。笑。

 

コピーする場合は、楽譜通りやっても面白くないと思うんですよね。本人たち(俺らのことだけど。笑)だって楽譜なんて見てもないし、作ってもない。笑。まあ、一応、コード譜と構成譜はありますけれども、ライブでガラっと変えたりしますから。バンドスコアは立ち読みでコード進行を確認するくらいでいいんじゃないでしょうか。怒られるかな、こういうこと書くと。笑。CD通りに再現することにそもそも魅力を感じていないんです。というか物理的に不可能です。そもそも人数が足りない。「CDみたーい」って音楽は録音したもの再生してますよ、多分。笑。

 

『Wonder Future』の曲はどうですかね。どれもバンドを20年やってきた我々の濃いコミュニケーションの産物なので、コピーしても「感じ」が出ないと思います。笑。なので、自分たちの「感じ」にしちゃってください。

 

「オペラグラス」、そんなに難しくないですよ。

 

 

青山ゆみこ

物語や風景に加えて、この曲は歌詞にもメロディにもとりわけ音の楽しさが溢れている気がします。アジカンの皆さんにとって空気のように存在する音楽(ロック)への深い思いを感じて、聴く度にじんわりあたたかい気持ちになります。演奏するとやっぱり幸せな気持ちになりますか?

 

僕はイントロがダサいというか、ユーモラスだと感じているので、そのパートを演奏するだけで自然と笑みが浮かんでしまいます。ニヤっとしてしまう。あのリフを真剣な顔で弾くのは、なんかものすごく阿呆なんじゃないかと思ってしまうんです。笑。

 

「メインストリートで〜」のあたりは何度歌っても気持ちがいいですね。演奏していて、もっとも開放感がある場所です。そして、サビになると、なんだか質感が変わるんですね。個人的な、身体的な開放感が、共有することへの喜びみたいなものに変わっていきます。「荒野で〜」から、そういう気分になるんですけれども。なんというか、現実と地続きの熱なんですよね。たぎっているのに、平熱に近いんです。「僕ら」という言葉が歌詞に出てくることも、その一因だと思います。

 

 

 

 というわけで、長い間ありがとうございました。『Wonder Future』を楽しく聴いていただけたら幸いです。そして、ツアーにも来てもらえたら、嬉しいです。今回のツアーは本当に充実した内容になっていますし、このアルバムを通してこれまでのアジカンを再構築したような内容になっていますので。

 

 しかし、音楽を言葉で表すのは難しいですね。詩に関しても同じです。あるフィーリングを表すために言葉を絞っていくような要素が作詞にはあるので、それをもう一度広げて話すことは骨が折れるというか、ある種の無粋さを感じてしまうんです。訳は言わないほうがいいような気持ちがあるので、歌詞の質問は避けがちになってしまうんですね。でも、音楽の質問と言ったって、バンドとかをやったことのないひとにとっては、どこから訊いていいのかわからないっていう話なのかなとも思うんです。尋ねる側も答える側も言語化するのが難しい、っていうのが音楽なので。

 

 でも、こうして興味を持ってくれるのはとても嬉しいです。「こんなふうに聴いてくれてるんだ!」という発見の連続でした。感無量。

 

2015-07-23 1437633185
©2010 Sony Music Entertainment(Japan) Inc. All rights Reserved.