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全曲解説は8曲目。「Wonder Futuer/ワンダーフューチャー」です。日本語でタイトルを付けなかったのは、どういうことなのかをリスナーに委ねたかったからです。「Wonder」をどう訳すのか。そこに想いは込めてあります。ということで、今回は、特にこの日記の最後を読んで欲しいなぁと思える解説になりました。質問してくれた皆様、どうもありがとう。
すん
サビの転調が印象的です。メロディを目立たせるためですか?何か理由があれば教えてください。また曲のキーは普段どのように決めているのでしょうか。基本的には元ネタのままで、メロディを乗せて歌いづらかったら変えるのでしょうか。
ほとんどのロックミュージシャンの短所は楽理がよく分かっていないということです。他ならぬ僕も、専門的な教育を受けたことがありません。ただ、この短所が上手に働くこともあって、その好例が「Wonder Future」での転調だと思います。よくも考えずに、「なんとなくそっちのほうが気持ち良い」くらいでコード進行を考えていますから。笑。
D#m7/A#とBadd9という普段あまり使わない握りのコード進行から、エイヤ!と割と得意なコード進行に持っていったことで、F#からBに転調してしまいました。鍵盤で弾いてみると、EとFが含まれるか含まれないかの違いなんですけれども。
キーの変更は歌ってみて考えますね。ボーカルが気持ちよく出る音域ならば問題ないんですけれども、高いとか低いとか、そういうことがたまにあります。半音下げチューニングの曲は「高い」と判断されて、半音下げになっていることが多いですね。楽器の響きが関わるので、却下されることもあります。
今回のアルバムでは、「Winner and Loser/勝者と敗者」のキーが高くて半音下げたかったんですけれども、半音を下げるとギターリフの倍音の鳴りが変わってしまってアンサンブルの良さが削がれたので、原曲通りのキーが採用されました。正直言って、ライブで歌うのがしんどいです。血管が破裂しそうです。笑。
rody
この曲は始まりから悲しみについて歌われていますが、私はそれが何か不変の、生きている限り続く感情に思えました。産まれてから生きていく過程でひとを愛したり何かを大切に想ったりすることと切り離せないと。驚くべき未来、後藤さんはどの様に見えますか。
ビートルズの「In My Life」という曲を聴くと、人生に付随する「悲しみ」を僕は感じます。それは大きくなったり小さくなったりするものではなくて、とにかくずっと鳴り続けている通奏低音のようなものなんですけれども。村上春樹さんが小説『ノルウェイの森』の中でも登場人物に語らせていますよね。「彼らは人生の悲しみとか優しさとかを知っている」と。
人生の「悲しみ」について、僕はこの歌詞の冒頭で書いたような風景を思い浮かべます。擦り切れいっぱいの「悲しみ」の中に浮かんでいるような、そんな風景です。
「驚くべき未来」ってどんなものなんでしょうね。そういう歌を作っておいてなんですけれども、僕には分かりません。笑。
でも、事後的に考えれば、ゴッチ少年の思い描いていた将来像からは遠く離れた「驚くべき未来」みたいな場所に僕はいます。そもそも、自分がミュージシャンになるだなんて、考えてもみなかったですから。
たろべぇ@7/5戸田・7/18横アリ
コーラスにシモリョーさんと岩崎愛さんを起用していますが、これはコーラスが高音すぎて建さんでは出なかったからですか?
コーラスを録音するときには、「人数感」について考えます。コーラスをしている人の数が増えると、風景が広がっていくように感じるんですね。例えば、極端な話、30人くらいで歌ったら「みんなのうた」みたいになるじゃないですか。逆に個人的に感じていることを表す場合には、みんなで歌ってたりすると雰囲気が損なわれますよね。
この曲の場合、徐々に人数が増えていきます。最後のサビでは全員が歌いはじめます。それぞれの「Wonder Future」が立ち現れて、交差していくようなイメージです。こういうことを表現したかったので、アジカンのメンバー以外が歌っているほうが良かったし(印象が閉じてしまわないように)、女性のコーラスが必要だなと思いました。男の人からの視点を歌っている曲ではないですから。ちなみに、建さんもコーラスしています。笑。
ミックスエンジニアのニックは「このコーラスワーク最高だな!」って興奮していましたね。「女の子のコーラスが重なってくるところがマジ最高!」とも言っていましたね。僕もこの曲のコーラスワークは気に入っています。人数が増えていくことで、ポジティブなフィーリングが加わりますよね。独りでジトっと歌い上げたら、深刻な曲になってしまったかもしれません。笑。
こばし
この曲は個人的に1番今までのアジカンぽいなと思います。聞いててなんか安心して大好きです。 この曲名はアルバム名と同じですが、どっちから先に決めたんですか?
曲名からですね。この曲の歌詞を書いて、曲名を付けて、「この曲のタイトルをそのままアルバムのタイトルにしよう」と思いました。
もっともアジカンっぽいですかね。きっと、ぞれぞれのアジカン像ってあるんでしょうね。面白いです。僕は「リライト」とか「ソラニン」とかがやっぱりいわゆる「アジカンっぽい」曲なのかなと思っているんですけれども。笑。
まんじゅう
「太陽が照らし出す〜」の歌詞と歌声に、「わー!」と走り出したくなるような感動を覚えます。以前instagramにこの歌詞を書いた時の写真をのせていましたが、その時はまだメロディーは無かったと思います。歌詞の全体像はありましたか?
いや、その時には既にメロディがありましたよ。というか、僕は歌詞から書くことがほとんどないのです。というか、「ソラニン」以外ではやったことないです。メロディや楽曲を書くのが先ですから、いつも。
歌詞は基本的に一行目から書きます。で、いわゆる一番の歌詞が完成したくらいから、いろいろな部分の言葉が同時多発的に湧き上がってくることが多いですね。逆に、なかなか言葉が出てこない部分もある。
「太陽が照らし出す〜」みたいな、繰り返しのパートではない部分の歌詞は大事ですよね。メロディも韻も独立していることが多いので、曲の中で、どうしても印象的な部分になってしまいます。だから、こういうブリッジとかミドルエイトとか言われるパートの歌詞を書くときは、いくぶん慎重になりますね。ある日突然に書けたりするんですけれども。言葉が出てこないときには、もう、待つしかない。笑。
この曲についても、いろいろ練っているなかで、突然、明け方に出てきた言葉でした。なかなか良い歌詞ですよね。自分でも気に入っています。
まっちー
この曲はティーザーで聞いたときにビビッときてしまい、今でも大好きです。こんなに名曲なのにアルバム以外で知る機会がないなんてもったいないと思っています。私はシングルカットすべきだと思いますが、ゴッチさんはどう思いますか?
本当ですよね。僕は今でもシングルとしてリカットして欲しいのですけれども、どうなんでしょう。レコード会社が決めることなので、僕にはなんとも。笑。シングルにしてくれるなら、来週にでもしたいですよ。
ヒロスケ
この曲はアルバムの中で1番洋楽っぽいなと思いました。イントロの建さんのリフとか、米国ドラマのエンディングテーマかな?とさえ思いました。 バンドで曲作りするとき、後藤さんがこういう曲を印象付けるリフもある程度考えていくのですか?
そうですかね。洋楽っぽいですかね。笑。僕にはよく分からないですけれども。
でも、逆に日本的な楽曲構成とかコード進行ってありますよね。最近の日本のポピュラーミュージックって、構成がとっても複雑だと思います。あと、コード進行も音数も多い。一回しか出てこない音やパートがあったり、ABサビみたいな構成を逸脱して、もうFメロくらいまであるような感じもします。プログレッシブですよね。海外の人が面白がってくれるひとつの側面だと思います。
逆に、ひとつのコード進行やメロディや言葉をマイナーチェンジしながら、最後まで押し切る曲ってなかなかないですよね。例えば、こういう楽曲。
比べてみると面白いですね。どっちが良いとか悪いとかではなくて。こうしたシンプルな展開のなかでの細やかな変化を楽しむよりは、ドラマチックな起承転結を楽しむ文化が日本にはあるのかもしれません。物語好きなところや、屏風絵や浮世絵なんかとも関連付けて、文化や地域による興味の違いを考えると面白いですよね。でも、尺八の複雑な倍音を楽しんだりもするわけですから(すごいミニマルな変化を楽しんでいるはず)、文化ってとても不思議ですよね。
リフは誰が考えているのかという質問ですが、曲の作り方はひとつだけではないので一概には言えないですね。「Wonder Future」のギターリフは建さんが考えました。でも、「Easter」のリフは僕が考えていたり、「Little Lennon」のリフは山ちゃんがゴリ推ししたものだったり、場合によっては潔が口で歌ったものが採用されることもあります。笑。ケースバイケースです。
サナゲ
ワンダーフューチャー、ゴッチさんがnocon vol.4で弾き語りをしていて凄く感動したのを覚えています。死ぬ程素敵だったので私も歌詞カードの背景のギターコード、TABを真似てみたんですが 何かが違う気がします。技量の問題でしょうか…?泣
ジャケットに載っているTABは見にくいですよね。4フレットにカポタストを付けないと雰囲気が出ないと思います。
この写真を参考にしてください。これがイントロからヴァースのパターンの2コードです。最初のコードでは人差し指は浮いていますので、ご注意を。
「感じ」が出ましたかね。笑。
元祖スヌービー
歌詞が、前作収録の『バイシクルレース』のその後の話のように受け取れる気がするのですが、どうなのでしょうか?
曲調としては近しい感じがしますね。「漕ぐ」っていう共通項もありますし。そう言われれば、言わんとしていることも似ているように思います。別の曲だけれども、同じ源泉から湧き出した言葉とメロディですね。こうやって誰かに指摘してもらって、自分で気がつくこともあるから、曲作りって面白いですね。
当時は、というか今でもそうですけれども、例えば「白と黒」「右と左」「善と悪」「関係者と部外者」みたいになんでも二極に分けて考える人がぐっと可視化されたように感じます。そんなゼロサムみたいな、デジタル信号のように物事をパキっとふたつに分けることって不可能ですよね。
そして、そんな考え方の中心という表現が適切かは分かりませんが、社会の真ん中にはぽっかりと大きな空洞があるようにも感じます。空虚とか空疎とかいう言葉がしっくりくるような大きな穴を、僕らの無関心やデジタル思考が担保してしまっているようにも。そんな中で僕らは目的地のないチキンレースをさせられているようにも感じます。
「バイシクルレース」は僕の願いを強く書き留めた曲でもあるので、こうしてリプレゼントできて嬉しいです。『Wonder Future』と合わせて聴いてもらえたら嬉しいです。
「いつかはこの空洞を埋めるように微笑み合いたいな」
というセンテンスは、どんな活動をするにしても、僕の本心ですから。核心にある一文です。誰かをやり込めるために、何かをしたいわけではないので。伝わっているとしたら、とっても嬉しいです。
というわけで、次回は「Prisoner in a Frame/額の中の囚人」です。7月3日。