『Wonder Future』 全曲解説 #3
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『Wonder Future』の全曲解説は第3回目です。楽しんでもらえているのならば嬉しいです。というわけで、「Winner and Loser / 勝者と敗者」の解説です。



陽月

全曲解説面白いです。質問です。曲の中ではWinner or Loserと歌っているのに、曲名はWinner and Loserとしたのは何故ですか?また、この曲は途中で拍が変わりますが、何拍子と捉えれば良いですか?

 

タイトルに関しては、「and」とするのが相応しいと思ったから、という身も蓋もない解答しかできません。リスナーに対して、「勝者か敗者か?」と問うているわけでもありませんし

 

曲の拍子については、基本的に6/8拍子なんですけれども、サビ(コーラスとも呼ぶ)パート以外の部分は4/4と2/4がくっついたような構造になっていますね。潔が8ビートを叩いているからなんですけれども、サビから6/8拍子になります。

 

ちなみに「暗号のワルツ」という曲も8ビートのリズムパターンの上で弦楽器が6/8拍子でリズムをとっているのですが、この曲の場合はずっとズレ続けていることがテーマになっているので、「Winner and Loser」とは意図が違います。こちらはサビでドラムに合流して4/4拍子になります。



dora

この曲のリズム隊が好きです。4人のクレジットになっていますが、この場合イニシアチブは誰が取るんですか?

 

この曲の場合は、山ちゃんが最初のネタを持ってきました。でも、結果的に潔と建さんが勝手に盛り上がって、イントロパートのセッションからイニシアチブを握ってしまったんですね。それで、山ちゃんが作曲クレジットが自分だけなのはおかしいと思ったのか引け目を感じたのか、全員のクレジットになりました。笑。とりあえず、アジカンはそのとき一番気持ちが盛り上がっているヤツがトップアレンジャーになります(でも、気に入らないアレンジには反抗します。笑)。



サナゲ@nocon vol.4

全曲解説、凄く面白いと思います!Winner and Loser、曲後半で鳥の首を絞めて出した様なシャウトが聞こえるのですが、その後何事も無かった様に歌に入っているのでギターの音かな、とも思ったのですが あれは人の声ですか?

 

えーと、鳥ではなくて、僕の声です。そんな感じでしたかね…。鳥の首を絞めたような声って…。涙。



あっすー

私はこの曲のイントロがすごい好きです!でも、ゴッチは最初?却下してたんですね?でも、どうして採用?したんですか?ケンちゃんがそんなに推してたんです

 

このイントロの最後の部分がどうしても覚えられなかったんです。というのも、8分音符5つのキメが最後にあるのですが、音符の数が奇数なのと、裏拍から打たないといけないというトリッキーな構造なのです。これがどうにも身体に入らなくて、仕方がないので、譜面に書いて「誰だよ、こんなややこしいイントロにしたのは!」と怒りながらセッション/録音していました。「ギミックだろ、こんなもの!」と憤りながら。メンバーは「うわぁ…激オコだよ、あのメガネ…」って感じだったと思います。笑。

 

でも、僕以外のメンバーが「最高だ!」と言って聞かなかったんですよ。ものすごく楽しそうに演奏していましたし。そういう良い雰囲気に水を差すのも大人気ないなぁと思いましたし、何より、メンバーが喜ぶようなアルバムを作りたいと今回は思っていましたから。



えんも

どのタイミングで質問すべきか迷いました。この曲に限ったことではありませんが、四打ちを今回のアルバムに使っていないのは意図的なものですか?

 

今回のアルバムは「四つ打ち」の曲は除外して考えました。理由は、単純にシンプルな8ビートの曲をたくさん作りたかったということです。フー・ファイターズの『スタジオ606』で録音するということが、「格好いい8ビートのロックアルバムを作りたい」という思いの動機でもあり、そういう気持ちをドライヴさせてくれた出来事でもありました。いわゆるオーセンティックなロックビートを体現したかったというか。

 

フー・ファイターズが『スタジオ606』で行ったアルバム全曲再現ライブの映像を貼っておきますね。むちゃんこ格好いいです。僕らはここに行って、アルバムを作ってきました。

 

 

ちなみに、ドンドンドンドンと四分音符でバスドラムを踏んでいるのが、「四分キック=四つ打ち」ですね。アジカンで言うと、このあたりの曲のことです。

 

 

「君という花」の頃は「和メロ」みたいな、アジアのエスニックみたいなメロディを意識していました。海外の人たちが食いつくんじゃないかななんて考えながら。そして、ブルートレインも四分キックなんですけれども、このあたりはXTCの『BLACK SEA』とか、イギリスのニューウェイブからの影響が大きいです。

 

 

 

最近ではアジカンの海外ライブが増えているんですけれども、そういう海外のライブ会場でも、四分キックの曲よりも8ビートで勢いのある曲のほうが盛り上がるように感じるんですね。ラウドであることって、ロックの世界共通語としてすんなり伝わるというか...。サイレンみたいな重くて太いアレンジの曲にも手応えを感じます。そういう経験も、アジカンがラウドな8ビートに舵を切った要因のひとつですね。そういう意味では、スケベなのかもしれません、僕ら。笑。



るうおど

シャウトの部分なのですが、昔のアジカンの時とは違うシャウトなのは何故ですか。個人的にfoo fightersのwhite limoのシャウトが頭を過ぎりました。

 

この曲ですね(ちなみにこのPVに出てくる白いリムジンに乗せてもらいました。自慢)。

 

 

フー・ファイターズの『WASTING LIGHT』というアルバム1曲目が「Bridge Burning」という曲なのですが、その曲の冒頭でデイヴ・グロールがシャウトするんです。意味があるのかないのか分からないんですけれども、ロックバンド的には問答無用のエネルギーが放たれていて「これだ!!」と感じるんです。ちょっとだけ笑えるんだけれども、格好いいんですよ。

 

 

デイヴのシャウトにメンバー皆と痺れまして、今回のアルバムでは、デイヴの「ア゛ーーーッ!!」を参照しながら、曲作りをしました。「お前のギターリフはあの『ア゛ーーーッ!!』よりも必要性があるのか?」みたいな使い方で、参照されていたんですけれども。笑。



merry

この曲の途中に入っている後藤さんの「ア゛ーーーッ!!」という咆哮はデイヴ・グロールを意識されたのですか?また、なぜこの声をこの曲のこの部分に入れたのでしょうか?

 

質問の前半については、ひとつ前の質問を参照してください。

 

そして、どうしてかという問いには、そうしたかったからだとしか答えようがありません。笑。そこで「ア゛ーーーッ!!」って歌いたくなったんです。

 

ちなみに、L.A.の『スタジオ606』でのセッションの最後に、この「ア゛ーーーッ!!」を録音しました。先にやってしまうと喉が潰れてしまうかもしれないという恐怖感があったというのもありますが、この「ア゛ーーーッ!!」で締めくくって帰るのが、最も美しいと思いまして。笑。8回くらい叫んで、最後に良い「ア゛ーーーッ!!」が出たので、それでヨシとして日本に帰ってきました。



ゆきぽん

Winner and Loserの質問ではないかもしれませんが、アルバム全体を通じコーラスが印象に残る曲が多いと感じます。コーラスの和音やどこにコーラスを乗せるか、シャウトの部分を入れる事等は皆さんで決めるのですか?

 

コーラスワークについては僕がひとりで決めています。ジトーっと作業場に篭もって、自分で録音しながらコーラスワークを考えて、完成したデモを皆に送っています。一応、メンバーの意見も聞きますが、ここ数年は特に反対も追加もないですね。笑。

 

今回のアルバムは、数年前からいろいろ工夫しているコーラスワークの集大成でもあるので、印象的だと言ってもらえて嬉しいです。最近では、洋楽のボーカルって、大体ダブルなんですよね。主旋律のボーカルが2本録音されています。でも、これを日本語でやるとむちゃくちゃ格好悪いというか、なんとも鈍い感じになってしまうんですよね。もともとアタック音が強くない言語なので、ヌメっとしちゃうんです。英語の場合はそういうことなく、ボーカルを強調するような効果が得られているように感じます。

 

そういう効果を日本語でも得るにはどうしたらいいのか、ということを延々考えて作っていたんです。ダブルだとヌメっとしちゃうし、シングルだと妙に生々しくてサウンドから浮いてしまう。それを解消するにはどうしたらいいのか。今回のアルバムでは、それが上手くいったと思っています。



manami

たまにこういった曲がありますね、暗号のワルツや夜を越えてなど。スムーズに曲として 成り立ってるとこころがすごいなと思います。最初から意識的に作るんですか?

 

こういう入り組んだビートは考えて作らないとできないですね。でも、最初から設計図があるわけではなくて、セッションの途中で誰かが閃いたりして、曲は展開していきます。この曲のビートは潔と建さんが盛り上がって、このようなかたちになったそうです。

 

伝聞形式なのは、僕はそのセッションに参加していないからです。笑。スタジオで初めて聴かせてもらった段階で、すでに変わったビートでしたから。「またややこしい感じの曲だなぁ」と思いました。



のび

韻を踏んだ歌詞や、発語感を意識した歌い方が、他の曲よりも特徴的で、歌詞を気にせず聴いていても楽しい曲だなと思います。 そのような歌にされた理由などあるのでしょうか?

 

こういう重いサウンドの曲は言葉の意味が邪魔してしまうと台無しになってしまうように感じるんですね。どうしても、言葉に耳を寄せるひとが多いので、言葉に引っ張られてしまう。なので、イメージの断片を投げるように言葉を重ねるくらいが丁度いいように思うんです。主題についてのイメージを文章にしないで、カットアップして、部分ごと投げつけていくようなやり方なんですけれども。

 

曲によって、どのくらい言葉が干渉してくるのかっていうバランスは、試行錯誤しています。僕は別に歌っていることがすぐに分からなくなっていいじゃないかとも考えているんですが、意味なんて全くなくていいとは思っていないので。まあ、言葉自体に意味やイメージがこびりついていますから、全くの無意味な言葉の羅列にも何らかの意味やイメージが立ち上がりますけれど。笑。

 

それから、「サウンドが気持ちいい!」っていうのも音楽のひとつの魅力なんですけれども、どうしても言葉が重用されがちですよね。笑。インタビューやこういうQ&Aとかでも、やっぱり歌詞への質問が多いです。伝統的に言葉が好きなんだと思います、日本人は。日本の伝統芸って、語り物が多いですから。

 

 

 

というわけで、次の曲は「Caterpillar / 芋虫」です。質問はTwitterで受け付けています。6月17日。

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