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自宅近くの狭い道路を歩いていると前方から一輪車に乗っている少女が近づいてきたのだった。手に杖のようなものを持って、それを地面につきながら身体を支えてバランスを取っている。おお、まだ上手じゃないから練習してるのかぁ、しかも土曜日にひとりで!と感心していると、何やら少女の様子がおかしい。なんかもうちょっと心配になるくらいクネクネと、というよりは酩酊しているオッサンのようにフラつきはじめたではないか。危ないな、大丈夫かな、そういう心配をするのは大人として当然のことだと思うのだけれども、その子が近づいてくるにつれて、なんだか手に持っている杖が、杖としては何だかおかしいことに俺は気がついたのだった。
フラッフラの酔っ払いのようになっている一輪車に乗った少女は、杖状の何かを道路のあっちこっちに打つけながら必死に倒れまいとしていた。カチン、カチンという音からして、どうやら鉄の棒を持っているらしい。段々と少女との距離が狭まってくると、その杖の先にはコブ状の部分が溶接されているような形状であることがわかり、近眼の俺はしばらくして、それがゴルフクラブのアイアンであることに気がつき、気がついてすぐにカチンカチンと聴こえていた音がガッコン、ガギッという擬音語に脳内で置き換わった。あれ、あぶないよね、っていうバイアスが擬音語を変化させたのだと思う。
いやぁ、通りづらいなぁ、とか思って引き続き歩いていくと、ふいに少女がブベラッという感じでよろけて、見たこともないような感じでクネクネと暴れだしたのだった。ちょうど間寛平の杖を振り回す爺さんのような格好だった。
ガコッ、バキッ、ガチンと金属音のボリュームを上げながら、少女はこちらに向かってきた。ヤバい。殺られるかもしれない。少女は不規則によろけながら地面をゴルフクラブで殴打しているので、こう来たらこう、というような身を躱すための予測が立たない。これはまずい。
引き返すしかないな。と、思ったところで、少女はクルっとUターンをして、地面を殴打しながらもと来た道を戻っていったのであった。恐ろしい経験だった。3月14日。