オジイとオバア
カテゴリ:日記

 

 新幹線の中でオバアさんが不機嫌そうな顔で何かを叫んでいた。俺は車外に居たので、何を言っているのかわからないが、オジイさんの袖の辺りをグイグイ引っ張っている。早く降りろとオジイさんを急かしているのだろうと、そう思って乗車するために並んでいる乗客の列に加わって、先客たちが降車し終わるのを待っていた。だが、オジイとオバアはいつまでも降りてこないのであった。なので、これから乗車する人々はオジイとオバアを待たずに客車に乗った。

 

 車内ではオバアが大きな声をあげていた。「アンタ!またドアに挟まれるよ!この間だって%&%&$'#!!!」と後半は何を言っているのか分からなかったが、とにかく毎度オジイは動きが遅くてこういった移動の度に大変なことになってしまうらしく、それについて文句を言いながら、オジイの手を引っ張っている。オジイはというと、少し様子が変で、動きが遅いというよりは降車を拒んでいるような動きで、一歩進んでは通路に面した椅子の突起にしがみつき、引っ張られてその手が突起から離れ、一歩進み、また椅子にへばりつき、というのを繰り返していて、埒が明かない。

 

 う〜む。これは様子がおかしい。なので俺はオジイの近くにいって、「ジイさん、大丈夫だよ。降りよう」と声を掛けながら、ムチャクチャ強ばってギューと手すりなどを握りしめている手を解き、オジイを子供だと思って車外まで誘導した。オジイはドアの淵にもへばりついたので、それもオバアが発する悲鳴のようなテンションの音声とは真逆の感じで、とにかく大丈夫だよオジイ、と、サポートするように押し出してやり、すると新幹線の扉は閉まった。オジイはまた外でオバアに何やら怒鳴られていたが、その声は聴こえなくなって、オバアの不機嫌そうな表情だけが車窓に残って、やがて遠くなって見えなくなった。

 

 きっと、オジイは認知症か何かではないかと俺は想像した。本当のところは分からん。だが、なにか不可抗力によって、ああなってしまったように感じた。オバアはむちゃくちゃ怒っていたが、疲れているのだとも思った。俺が触ったオジイの手の強ばりは、あまり出会ったことのない類のものだった。それはオバアの態度への真っ当なリアクションとして発露しているわけではない、と感じたのだ。

 

 例えばオジイが、このように日常生活に支障を来すほど、オジイの中の何かがこんがらがってしまったとする。それはオジイのせいではなくて、動物的な、身体的な、老いからくるものだ。オジイには非はない。で、俺はオバアだ。オバアは、その日々の、外的には不可解にこんがらがったオジイの面倒くささと毎日対峙しなければならないだろう。最初は優しくできるかもしれないけれど、ひとりで抱えて行く自信は俺にはない。全くない。あのオバアの悲鳴にも似たオジイへの言葉は、オジイに向けたものではなくて、もっと広く社会とかに発せられたSOSなのかも知らんと、俺は思うのだ。

 

 自己責任、みたいなことを言うヤツが増えて久しい。でも、個人で抱えるには重過ぎる問題もあるのだ。絶対にあるのだ。そして、そういう問題の解決方法を皆で共有し、時には負担し合うことが必要だと俺は思う。困ったときに支え合うために、国家というのはあるのだ。最低限のセーフティネットは必要なのだ。君たちは、オジイを伴侶に選んだオバアが悪いと言うのか。遺伝子でも調べて、ボケないようなヤツを選べと罵るのか。そういうわけにはいかない。そしてあれか、金のないヤツは我慢せよ、と言うのか。俺にはそういう言説は理解できない。

 

 まったく突飛な想像でもって、突飛な感情を俺はこの日記で爆発させているわけだけれども、案外、的は外れていないようにも思う。が、やっぱり誰に怒っているのか分からなくなってきてしまった。笑。

 

  オバアは今日も悲鳴に似た声をオジイに掛けながら生活しているのだろうか。例えばスーパーまでの道すがら、電柱にしがみつくオジイを引っぱり、大声をあげているのだろうか。ムチャ糞に疲弊しきっているのかもしれないし、あるいは単なるクソババアで、オジイも普通にこんなクソババアと結婚するんじゃなかった、死ぬまで困らせてやるぜとヨボヨボの体で全力の拒否を体現しているだけなのかも知らん。分からん。

 

 だが、困っている人よ、減れ!と俺は思う。何歩か譲って消費税みたいなもんで俺たちの負担が上がるならば、そういうところに真っ先に分け与えよ!日本政府!と俺は思うのだ。俺の税金を、しょうもないことに使わないで欲しい(将来の戦争とかね。ないことを祈る)。確定申告、大変なんだぞ!まあ、それは俺の都合なんだけど。笑。

 

 2月22日。

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