NANO-MUGEN 出演バンド紹介 「Dr.DOWNER」
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 今回紹介するのはDr.DOWNERです。

 

 俺がディレクションしたアルバム『ライジング』から。 

 

さよならティーンエイジ(アルバムver.)

 

 彼らがまだ10代の頃、横須賀の三笠公園で猪股(Vo&G)とケイタ(G)が当時やっていたバンドを観たことがある。凄く格好良かった。こんなヤツらがいるのかー!わー!と驚いて帰ったもの。アジカンよりも全然盛り上がってた。でも、そのバンドはいつしか解散してしまった。まあ、それからいろいろあって、今、またこうして猪股とケイタは一緒にバンドをやっているわけだ。

 

 Dr.DOWNERのデモ音源を初めてもらったとき、正直言って「こりゃ酷いな」と思った。でも、その中になんというか、輝くものもあった。ちゃんと耳を澄ませないと聴こえないような感じだったけれど、惹き付けられる何かが確かにあった。で、俺は、猪股に「俺の作業場で歌だけでも録ったら?」と誘って、できたのがシングル盤の『さよならティーンエイジ』だ。マイク7本を超適当に立てて演奏を録音し、俺のスタジオで歌を入れた。約束の日に烏龍茶の紙パックを持って現れた猪股は、酒の飲み過ぎで声がガラガラだった。俺はちょっと笑って、今日は帰れ!と追い返したのだった。笑。

 

 それから、まあ、何日か後にちゃんと録音して、『さよならティーンエイジ』は完成。荒削りだし、音悪いし、すごく笑えると思うけれど、なんとも言えない魅力がある。そんな作品。興味があるひとは、是非。

 

 それから、俺はバンドと一緒に『ライジング』というアルバムを作った。彼らはパンクバンドだっていう意識が強くて、どうしても地元のスタジオで一発録音したいとのことだった。まあ、俺もそれが合ってるんじゃないかと思ったので、能見台という駅から坂道を上ったところにあるスタジオジャストで全曲の録音を行った。俺はその録音に張り付いて、どこがどう足りないのかを説明しながら、彼らの一番良いテイクを選んでアルバムにまとめた。それが『ライジング』。

 

 完成したときは嬉しかった。ずっと横須賀で才能をこじらせている感じだったんだよね。猪股は卑屈さとネガティブさを日に日に煮詰めているような感じだったし、なによりも、10代のときにあんなに凄かったヤツらが、その呪縛っていうのかな、そんなものは幻想なんだけど、そこに片足を自分から突っ込んでもがいているような、そんな印象があった。あー、もったいない、俺はそう思って、彼らに「アルバムを一緒に作らないか?」と提案したわけ。

 

 音楽性はパンク/ハードコアが根っこにあるのと、それでいてJ-POPとかも嫌いじゃない、いや、結構好き、というような、いろいろなものが混じって、こじれて着地したところで爆発、みたいな音楽。イアン・マッケイからなぜかAC/DCを経由して、ハイスタにどっぷりつかって奥田民生、そしてチャットモンチーまで、というか。それってなんでも入ってるんじゃない?って感じがするかもだけど、なんつうのかな、しっかり偏ってる。笑。それをごちゃごちゃに混ぜて、卑屈さを足して、ついでに情熱も足してアウトプットしたらこうなりました、という音楽なんだけど、途中の回路がよく分からない。まあ、その回路がバンドそのものなのだけど。

 

「まちぼうけ」

 

 Dr.DOWNERは、是非ライブで体験して欲しい。凄い笑えるから。今時、笑えるバンドって少ないと思うんだ。笑えるっていっても、お笑い芸人たちが笑かそうと必死になって作り出している「笑い」とは違うんだよね。本人たちは真剣なんだけど、度を超えてるんだ。そこが笑える。で、大体のロックレジェンドは、笑える。笑ってしまうくらい凄いってことなんだけどさ。ボブ・ディランを観に行ったときに、俺は佐野元春さんが言った「優れたロックミュージシャンは優れたコメディアンである」という言葉を思い出した。まるで、冗談みたいだったんだよ。規模は全然違うし、比べちゃいけないかもなんだけど、ささやかでも同じ質感のものを彼らは持ってる。レジェンドになれるかどうかは、神のみぞ知る、だけどさ。

 

 そんな彼らを、今度はプロデュースして、『幻想のマボロシ』というアルバムを作った。7月の頭に発売。タイトルから笑える。「幻想はマボロシさぁ〜」って激エモに歌ってんだけど、そりゃそうだろ!って思うわけ。笑。幻想で幻(マボロシ)なんだから。でも、なんか妙に良いんだよね。変な言葉使いなんだけど、猪股の歌詞は最近のロックバンドの人たちが書いているものとは、随分と角度の違うものだと思う。俺はまあ、レコーディング中、ずっとそこにツッコミ入れてるんだけれど、アイツはそれが良いんだって言ってきかない。あはは。でも、たまに直したりもする。そこがちょっと可愛い。

 

 一緒にアルバムを作ってしまうと、なんとなくフェアな感じでは語れないんだよね。録音しているうちに、すっかり身内みたいな気分になってしまったからね。付き合いも長いし。でも本当に、面白いバンドだと思う。もし興味が湧いてきたら、ツタヤでもレンタルしているので、聴いてみて下さい。

 

 でもね、環境は人を変えるって言うのかな。ちょっと前まで三浦半島で卑屈を煮詰めたいたようなヤツらが、最近キラキラして見えるんだよね。本当に、なんかね、たまに泣けてくるのよ。

 

 5月21日。

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