今回紹介するのは、「the chef cooks me(シェフクックスミー)」です。何度も日記に書いていますが、現在俺がプロデュースしているバンド。

「パスカル&エレクトゥス」

　彼らをプロデュースしたいなと思ったのは、この「パスカル&エレクトゥス」をFLAKE RECORDESという大阪のレコード屋で聴いたことがきっかけです。FLAKEからリリースしていた7'インチレコードの音源がちょうど店内でかかっていたか、DAWAさんが「コレ聴いてみそ!」とかけてくれたかは忘れましたが、「めちゃくちゃ良い曲じゃないか!」と思ったことを鮮明に覚えています。ここ数年、俺が良いなって感じているポップネスを持っているというか。2008年くらいからのシガーロス、あとはアメリカのインディロック、そういうこところから溢れ出ているフィーリングと近しいものを感じたというか。とにかく、この曲を一緒に録音し直してみたいな、ひいては俺のレーベルからリリースできないもんかな、そんなことを考えました。

　それから随分たって、シモリョー(メンバーでソングライター)と渋谷で焼鳥を食いにいって、一緒に音源を作ろうじゃないかということで静かに盛り上がって、そこからもう一年が経ちました。そのあとでこの『パスカル〜』を再録音して、去年の『NANO-MUGENコンピレーション』に収録しました。あれから一年、現在は新作アルバムが完成間近。この間、みんなで「あれから一年だわぁ」なんて言ってスタジオで話して感慨深かったです。

　当時、というか、今も、彼らは音楽的にとてもいい時期を迎えていると俺は感じます。なのにレーベルとの契約がなかった。DAW(デジタルオーディオワークステーション)も発達しているし、発表しようと思えばネット上にすぐにアップできる。CDのプレス代も随分安い。そういうことを考えれば、なにもレーベルと契約する必要がないっていう考えも最近ではありますが、やっぱり、シェフのような大所帯(管楽器、ピアノ、コーラスのサポートメンバーを入れて10人)のバンド編成を考えると、良い音で仕上げるためにはそれなりのお金が必要なんです。管楽器とかね、ドラムの音とか、やっぱり良いスタジオで良い機材使って録音したい。

　だから、俺はこのバンドにそういう、良い音で録音して世の中に発表する機会をまず与えたかったんですね。別にあれこれ手を加えて彼らをコントロールしたいとかじゃなくて、とにかく「音楽的に何度目かの黄金期というか収穫期にあるのではないか」と俺が感ずるこのバンドが、音源制作に取り組む機会と金銭と時間を得ていないって部分を解決したかった。っていうのが俺のプロデューサーとしての動機です。前にも書いたけれど、この才能に対する機会っていう「血」の巡りを良くしたいと思ったんです。

　まあ、あとは、バンドのやりたいことを叶えると、それが俺の役割。その中で、迷ったときに、「俺はAだと思う」ということをバスっと断言して責任を取ると。シェフの新しいアルバムが「最高だ!」と評価されるならば、それは彼らの努力と才能によるものです。ただ、「あー、ここがイマイチ!」という部分があったならば、それは俺のせいです。笑。「このクソプロデューサー!」と呼んで下さい。あはは。

「僕らの住む町」

　この曲は随分と前に発表された作品ですけれど、今でもみずみずしいですよね。素晴らしいPOPセンス。最近は、この年代の作る音楽が面白いですよね。AIR JAM世代や洋楽(英語詞の音楽とも言い換えられる)に影響された世代が、ある程度発表する機会を得てから一度煮詰まって(あるいは立ち止まって)、自分たちが何を鳴らすのかに自覚的にならざるをえないというか、そういう季節を迎えている、あるいは「いた」、ように感じます。で、面白い人たちはちゃんと面白いものを作るというか、そういう季節を抜ける瞬間に、とても素晴らしい作品を世に放つと思います。

　the chef cooks meもそういう季節を、随分と長いトンネルだったかもしれないけれど、このような「僕らの住む町」に宿っているキラキラとしたエモーションを、もう少し自分たちの身体にたぐり寄せたかたちで結実させようとしています。それはスタジオに随分長いこと一緒に入っているので、間近でビンビン感じています。

　新しいアルバムは秋頃の発売を目指していますので、乞うご期待。それまでは、今年の『NANO-MUGEN コンピレーション』を是非。5月18日。