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せっかくの黄金(ウンコのことではない)週間、しかも珍しく休みときている。これは旅に出るしかあるまいと旅行計画を急造し、パンツやTシャツなどをバッグに詰めて出かけたのだった。
電車を乗り継ぎ、新幹線に乗り、また在来線に乗って辿り着いたのは某県の田舎町。町というか、ノペーっとした田園、というような感じの場所にある駅だった。目指すは海。ここは田んぼの真ん中みたいな場所だけれども、しばらく車で走ると海がある。俺は駅前で待機していたタクシーに乗って海を目指した。
ノペーっとした田園から、千葉っぽい感じの山って言うには山でなく、畑っていうには緑が多い、みたいな感じのところを抜けると遠くに海が見えた。おー、と思ったも束の間、運転手のジジイがボソボソと何やら語りはじめたのだった。「ここいら一体は昔は海だったのよ」。結構先まで普通に畑が続いているのだけれど、どうやらそういうことらしい。へぇ、と俺は思った。間髪入れずに運転手のジジイは言う。「だから、ここら辺はヘドロの上なんだよね。50年経っても地盤がダメなのよ」。
俺は暗い気持ちになった。折角の休みを利用して海まで来た。しかも観光で。タクシー運転手も俺が観光客であることくらいは知っているはずで、つうかこんなノペーっとした田舎の田園の真ん中にある駅から海まで数千円の運賃を払って行くヤツなんか観光でしかありえないだろう。だのに、なのに、どうして「ヘドロの上」とか暴露しちゃうんだろうか。アホなんだろうか。まあでも仕方ない。ヘドロの上だとジジイは言っているが、海までの平地ではちゃんとキャベツやらよく分からん野菜やらが栽培されているではないか。もしかしたら、このジジイの運転手がヘドロとは何たるたるかを分かっていない可能性がある。思い出の海を埋め立てられた恨みが濃縮されて、埋立に使った山の土をヘドロと呼んでいるのかもわからん。俺は気持ちを切り換えた。が、遠くに、なんともヌラヌラとした沼のような、タールのような、怪しい干拓地が目に入って、また暗い気持ちになった。
そして、ホテルに到着。とても見晴らしの良い場所で、景色が良かった。そこから見える海や離島、ヨットハーバー、港など、さっきのタクシー運転手が言っていたヘドロのことを忘れさせてくれる美しさだった。フロントでチェックインをし、部屋に案内してもらった。村山富市をドリフターズで10年間修行させたみたいなジジイがチェックインから案内までを行ってくれた。ここいらにはジジイしかいないのかと心配になったが、途中でイケメン従業員とすれ違って安心した。連れていかれた部屋は禁煙ルームとは名ばかりの煙草くっさい部屋で、ジイさんは「朝から換気しているが、まったく匂いがとれない」というようなことを言っているので、こちらとしては禁煙っつうことで予約してるんで別の部屋ないかしらん、できたら移動させてちょ、という要求を当然ながらさせてもらって、部屋を変更させてもらった。とても快適で、まったく煙草の匂いのしない部屋に通されたので、驚いた。あるやんけ、と思った。
さて、風呂、と思ったら、愉快な仲間が廊下を闊歩していた。12、3cmはあったと思う。
うわーと思ってフロントに電話すると、直ぐにフロントのジイさんが栗を拾うようなデカいトングを持って現れ、「いやぁ、横綱級ですなぁ!!!」と満面の笑みでグワシとムカデを掴み、去っていった。俺は狐につままれたような気分になって、しばらくその場で放心してしまったが、いつまでもここにいると他の客がそんな俺を見て通報、再びジイさんが現れて「いやぁ、横綱級のメガネですなぁ」と俺をトングでグワシとするかもしれない。それは嫌だ。なので、深く息を吸って、吐いてから大浴場に向かった。
大浴場は大人3人入れば、なんとなく近い、そう感じるくらいの広さで、そこにすでに3人の先客がおり、当然そこに俺が来たのでちょっと窮屈な感じは否めず、気を使った先客のひとり(別のジイさん)が出ていったのでキンタマを寄せ合うようなことにはならなかったが、せ、狭いな、と、思いながら湯船に浸かって、帰りに自販機でビールを買って飲んで、適当に飯を食って寝た。5月5日。