『ランドマーク』全曲解説 「大洋航路」
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 我々のアルバム『ランドマーク』の全曲解説、今回は「大洋航路」です。

 

 とてもシンプルな構成の曲です。もうド直球のパワーポップという感じなので、アジカンに持って行くかどうか迷いました。当時の気分と比較すると明る過ぎるというか...。ソロの弾語りライブでやる曲にしようかと思ったくらいでした。アルバムの流れの中で聴くと、逆にホッとしますけどね。この「大洋航路」まできて、やっと「おー、アジカンのアルバムだー」って感じるのではないかと思います。「N2」くらいから、歌詞も含めて、どこ行くのかな?って感じがしないでもないですよね。でも、「大洋航路」で安心する、それは僕も。笑。

 

 曲作りは最初から最後まで俺が弾語りでメンバーに披露して、そこからセッションで肉付けをしていきました。ケンさんがメインフレーズをひねり出すのに苦労していました。曲が先に出来上がってしまうと、案外印象的なリフを差し込むのに苦労します。でも、それがないと曲がハネないので、俺とかキヨシから「もうひと超え欲しい」などと言われて、ケンさんは毎度スタジオ内で悶絶するわけです。そうすると発生するのが喜多建介の地獄モードで、これは長いと7時間くらいに及ぶこともあって、その間俺たちは何もすること無く、とにかくひたすら岩戸を開けてくれるのを待つわけです。『ランドマーク』の制作ではこの地獄モードはありませんでしたが。

 

 コード進行がとてもシンプルなので、ギター初心者でも簡単に弾語りできます。人差し指と中指でベース音を動かしていくだけなので(F#GBC)。一弦と二弦の3フレットを押さえ続ける小指と薬指が痛くなるかもしれませんが、慣れてしまえばこっちのもんで、この曲を弾語りでコピーできれば、あとはもうその覚えたやり方の応用で何曲でも作れます。この辺だけ動かしても曲になるのか!と。ズルい!って思うかもしれません。俺はこのやり方をノエル・ギャラガー(オアシス)から学んだんです。笑。

 

 

 この『ワンダーウォール』という曲もそうですけど、オアシスの初期の曲はフレットの移動がないシンプルなコード進行の曲が多いんです。当時19歳の俺は、コードが簡単なのにどうしてこんな名曲ができるのか!と興奮して、毎日『ワンダーウォール』を練習してギターを覚えました。そして、この曲をどれだけ練習しても、リアムやノエルより格好良く演奏できることはできないという、当たり前の事実なんですが、そういうことを思って、「これは作らないといけないんだな」と決意しました。オアシスに憧れてもオアシスには絶対になれないというか。俺がなりたいのは「何者」かであるんだということに気づいたというか。わー、青春。笑。なので、コピーできたら、とっととアジカンのコピーバンドなんか止めて、ガッシガシ曲を作ってみて下さい。

 

 歌詞については、シャイクスピアの『ハムレット』から「to be, or not to be」を引用しています。ほとんどの音楽ライターさんは指摘してくれなかったなぁ。まあ、ツッコまれても、そこまで深く語れなかっただろうから、ほっとしている部分もありますけど。笑。

 

 有名な日本語訳としては「生きるべきか死ぬべきか」とあるんですが、まあ「やるべきか、やらざるべきか」とか「なるべきか、ならざるべきか(これだと文意からは逸れるけれど)」とか、まあ「どないしたろ」とか、そういう意味ですね。ハムレットが決断を自分に促すための独白というか、とても詩的な科白の一部分なのですが、その辺りはお近くの英文学科の学生さんが俺なんかより絶対に詳しいと思うので見つけて聞くかグーグル先生の力を借りて検索してみて下さい。まあ、『ハムレット』という、読んでいると脳を骨折しそうになる悲劇の一節を引用していると、そういうことです。それが「錆び付いて折れそうなオール」で「向こう岸の見えない」大洋に漕ぎ出す、その困難さというか、そういう心情や状況への比喩として用いているというか、次の行の、なにもかもをブン投げるような「大丈夫」への落差として用意されているというか、そういう引用です。

 

 この曲で言いたいことはあまりなくて、シンプルに「大丈夫」ってことだけです。

 

 まあ、皮肉とか、タフな現状とかを歌っている曲が多い『ランドマーク』ですが、ロックンロールに課せられたたった一つの役割は「大丈夫だ」って言うことだと俺は思ってるんです。ずっと。脳を骨折しそうな悲劇を前にして、ボロボロの船で太平洋を渡ろうとしている誰かに、「大丈夫だ」って言うこと。そんなことを言えるのは、まあロックンロール(あらゆるロックンロール的な表現を含む)しかないだろうと、そう思うんですね。百万個くらいの石が飛んできても「大丈夫!なんとかなるよ」って、わー、阿呆だけど、ド阿呆だけど、俺、そういう人らがいないと困るし、そういう人らがいてくれてここまで来れたので...。そういう荒唐無稽な精神、引き継ぎたいんです。笑。誰かに馬鹿にされても。理想論も夢想家も、俺は必要だと思う。

 

 俺たちは現実を生きているわけだけれど、現実だけと共に生きているわけではないですから。フィクションの果たす役割、俺は信じています。実際にはないこと、想像されたこと、それが僕らの現実を変えていくわけです。

 

 全曲解説は続く。1月24日。

 

 

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