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朝。とても腹が減ったのだけれど、どうもホテルのビュッフェでは勝てる気がしないので、表に出た。
宛もなくフラフラと街を徘徊していると、愛想の悪いババアが切盛りしているうらぶれた屋台を見つけた。普通ならばスルーするところだったけれど、俺はとてつもなく腹が空いていた。そして、なんとなく行列ができているチェーン店などの前では尻込みしてしまって、ここ30分くらい街を彷徨っていた。なので、仕方なくそのババアに「チャオハン」と、俺のできる範囲で限りなく北京語っぽい発音でチャーハンと言ってみたのだった。「下さい」にあたる北京語は知らなかった。
ババアはまったく分からへんというような顔をして、なにやら俺を怒鳴りつけている。横を見ると殺し屋のようなグラサンをかけた男がヒラッヒラの美女を連れていて、「オレ、コンビニでなんか飲み物買うてくるから、チャーハン頼んどき!」というような指示を女に出してからどこかに行ってしまった。ババアはその女に何かを言っている。するとそのベッピンさんが「あんた、どうしたん?」と俺に英語で話しかけてきた。英語で話しかけられているにも関わらず、俺は「日本語大丈夫?」と返してみたがやはり「日本語は無理やねん」という返事であった。なので、俺も英語で「チキンフライドライスが食いたい」と伝えた。彼女がそれを翻訳してババアに注文してくれたのだった。助かった。
ただ、そのあとは気もそぞろだった。殺し屋の男が帰ってきて「俺の女になに話かけてんねん、しばいたろか」と凄まれる可能性があったからだ。
本当ならばありったけの感謝と、ついでに台湾の観光情報でも聞いたろかしらん、お茶でも誘ったろかしらん、そんなことを考えても不思議ではない。なにしろスリムジーンズが似合う美脚のベッピンさんだった。ただ、殺し屋の女なので、それはできない。俺が台北の海に沈められたら、今夜の公演が中止になってしまう。なので、俺はちょこんと、屋台の隅の小汚いテーブルで踞ってチャーハンを待ち、一応、殺し屋の女が殺し屋の元に帰るときにできる限りの笑顔で手を振り、そのあとは沈黙したままモサモサと鶏肉チャーハンを食った。
大変に美味しかった。11月18日。