悲劇
カテゴリ:日記

 

 足の指がヌルっと冷たい。なんやろかと思って拭ってみると、マッサージをしてくれている婆様の痰(たん)であった。どうやら、婆様が持参したマッサージタオルに付着していたようだ。婆様は「どうしたのか?何がついていたのか?」と心配した様子でしつこく聞いてきたが、「うるせえな、ババア。オマエさんの痰だよ、コノヤロウ」などと怒鳴るわけにもいかず、さっとティッシュで拭き取って、何ごともなかったようにゴミ箱に捨て、うつ伏せの姿勢に戻った。

 

 80歳くらいの婆様なので、仕方ない。本当のことを言ったら、ショックで引退してしまうかもしれない。その場合は身体を動かすことが少なくなって、生活にも張りがなくなって惚けたり寝込んだりしてしまうかもしれない。ただ、俺の心の中にはどうしよういもない不快感が残って、そのやり場を探したけれど、なかった。

 

 マッサージの終盤、婆様がぼそりと呟いた。「私、あの人の従兄弟なのよ」TVにはミスター赤ヘルこと山本浩二が映っていた。11月13日。

 

 

2012-11-13 1352776200
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