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この日は取材。東京駅で官邸前デモに関する書籍の取材を受け、その後レーベルに移動して公式プラスという我々の有料携帯サイトのインタビューを受けた。
2本の取材はつつがなく終了。さて、次のツタヤでのトークショーの仕事までは時間がある。何か喉が渇いたなと思ったので、公式サイト担当スタッフに「何か飲み物はありますか?」と訊ねてみた。すると、スタッフは取材前から抱えていたビニール袋から、ごそごそと飲み物を取り出してくれた。
彼女はどうしてこんなに飲み物を買ってきてしまったのか。取材はインタビュアーと俺、スタッフの分を含めて4本もあれば足りる現場だった。だけども、ビニール袋から取り出された飲み物は13本もあった。
俺はとても驚いた。そして、ちょっと不安になった。恐ろしく気を使わせてしまっているのではないかと思った。もしからしたら、自分の知らないところで「アジカンの後藤は飲み物にうるさい」と噂されているのかもしれない。そうでなければ、この本数は解せない。今まで、このような現場で飲み物について不服を申し立てたり、不満を行動に移してペットボトルを投げつけたり、口をつけないといった陰湿な抗議をしてみたり、そういうことをした記憶は一切ない。大概、俺もメンバーも出されたものを飲んできた。どこかでボタンの掛け違いがあったのか、それとも誰かが俺を著しく嫌っていて「飲み物にうるさい」という虚言を流布したのか...。ともかく、彼女はこのくらい買ってこないとあのメガネが何をするか分からない、5枚のCD紹介というインタビューのお題を無視して意味不明な呪文などを唱えるかもしれない、掲載できないような卑猥なことを言うかもしれない、それだと私の仕事が成り立たない、給料が下がってしまう、クビになってしまうかもしれない、人生計画が台無しだ、そういう判断だったのかもしれない。
俺は13本のドリンクの中から『ごっくん馬路村』というドリンクを選んだ。コカコーラなどのジャンクな飲み物がある中、着色料と保存料無添加の優しい飲み物だった。ごっくんしたい、一気にごっくんしたい、一口目でそう思える味だった。馬路村には言ったことがないけれど、行ってみたいような気分にもなった。
「どうしてこんなに買ってきてしまったの?」という俺の問いに、スタッフの彼女は「何を飲むか分からなかったので」と答えた。だけれども普通、この『ごっくん馬路村』を飲むのではないかという想像を大抵のスタッフはしない。人間の好みの多様性を考えても、『ごっくん馬路村』をインタビュー時の飲み物に選ぶヤツはほとんどいないと思う。だけれども、その、マイノリティと思われる選択肢を彼女は排除しなかった。水とお茶とコーヒーを買っておけばよろしいやろと、と彼女は適当に選ばなかった。コンビニのドリンク棚で熟考したのだと思う。そして、コカコーラ、三ツ矢サイダーという炭酸飲料、野菜ジュース各種、そして『ごっくん馬路村』、ゴッチさんが飲みたいというのなら酒以外何でも飲ませてやりたい、そんな気持ちのこもった13本だったのだ。俺はそれに感動した。マジ感動した。
だけども、経費の無駄だぞ、とも思った。10月19日。