永久保存せよ
カテゴリ:日記

 

 今日は横須賀芸術劇場でリハーサルだった。舞台周りのスタッフやメンバーの間では「ゲネプロ」と呼ばれている行程で、内容としては「通し稽古」とか「観客なしの本番チェック」といったところか。「ゲネ」のあたりに、なにかゲスとカネが合体したみたいな発語感があって怖いと思うひとがいるかもしれない。実際、キヨシが「明日ゲネなんだよね〜」と携帯片手に得意気に語っているのをたまに耳にするが、そんなことを言っているキヨシの顔がどんどん長細くなって前歯が伸びて、ゲゲゲの鬼太郎のネズミ男に見えてくる響きがある。だけれども、「ゲネプロ」はドイツ語の「ゲネラルプローペ」の略で、ゲネラルは「総合」、「プローペ」は 「稽古」の意なので心配しないで欲しい。

 

 

 

 そして告知。明日のからのツアーの物販では、The Future Timesのトートバッグが販売されます。売上げは全額、The Future Timesの印刷代や取材費などの発行資金に使います。なにぶん無料配布という形を採っているので、こういう物販での収益が発行資金の助けになっています。毎度、Tシャツなどを購入して下さっている皆様に感謝します。無理をして買う必要はありません。なんか「ええなあ」とか思ったら是非。うわ、ダッサ、と思った場合は心の奥底に飲み込んで、ツイッターでつぶやいたりしないで下さい。傷つくので。バッグはThe Future Timesが折らずに入るサイズを採用してあります。色違いもありまして、そちらはチャオパニックの店頭で発売になります。詳しくはコチラのページをご覧下さい(通販もあります)。

 

 ちなみに、文字は俺の手書きしたものをデザイナーさんに取り込んでもらいました。酒を飲み過ぎたひと、みたいに震えまくった筆跡だったのですが、ええ感じにトリミングされています。右下には、一瞬何か気色の悪い虫のようなものが付着しているように見えますが、俺のサインなので心配しないで下さい。「変な虫がついています」などとクレームの電話をされると、メーカーの方が困るというよりは俺が凹んで酒を飲み過ぎ、声がかすれて歌が歌えないというようなことにならないか心配なので、よろしくお願いします。

 

 

 

そして、バッグについている下札についてのお知らせです。 

 

 

「お取り扱い上のご注意」という下札にはこうあります。

 

 

この製品は特殊加工品です。永久的なものではなく、もまれたり、擦られたりすると脱落しやすく、また、水洗いやクリーニングを繰り返すことにより多少薄くなります。取り扱いの際は次の点に十分ご注意ください。

●着用の際は、バッグ等で必要以上に摩擦しないでください。

●水洗いやクリーニングの際は、取り扱い絵表示を確認の上お願いします。

 

 ここまではなんの問題もありません。問題はこの後です。

 

「この下札は永久保存し、取扱いの際にご利用してください」

 

 

 特殊加工のバッグは、永久的なものではありません。それは当たり前のことです。どんなに大切に使っていても、永遠とか永久とかいうのは無理な話で、形あるものですから、いつか朽ち果てるでしょう。新しいバッグを欲しくなったり、飽きたりして買い替えてしまうかもしれない。引っ越しの際に邪魔になって「なんでこんなん買ったのかしら」とアジカンに熱を上げ過ぎていた時代を思い出して、ポイとほかすひともいるでしょう。何より、皆、いつか死ぬので、その場合、このトートバッグがお爺ちゃんお婆ちゃんの形見として末代まで取り置かれる可能性は低いように思います。古墳などに勾玉や埴輪、土器などと一緒に埋められて何千年後に発掘されるという残り方もしないでしょう。

 

 ですが、この下札には「永久保存」のすすめが明記されています。バッグではなくて、下札自体を、です。本来ならば、買ったそばから打ち捨てられてしまうような札です。これが永久に保存されるなんておかしい。「これさ、3代前の祖先が残した下札」と友人の自宅を訪ねたときに見せられても、意味が分からない。「へぇ〜」と答えて、何の下札であるか、俺は失礼のないように質問すると思う。当然、友人は答えに窮するだろうと想像します。「バッグ等で摩擦するな」と書いてあるから多分衣類ではないか、という会話になるでしょう。それはバッグでバッグを擦るというシチュエーションが満員電車以外に思い当たらないからで、実物のバッグが残っていなければ、そんな場面を想像することは不可能だからです。

 

 どうしてこんなにも矛盾したことが書いてあるのか。よく考えてみました。俺は多分、これは下札を一生懸命に作っているひとたちのささやかな反抗だと思うのです。洗濯の方法とか、よく調べもせずに洗ってはいないか。そんなもん分かるわいという態度で下札を引きちぎって速攻で捨てていないか。パンティ、靴下、股引、Tシャツ、タンクトップ、雑巾、などなんでも一緒にブチ込んで後は全自動の洗濯機任せにしていないか。脱水をかけたまま飲み会に出かけて翌朝まで放っておき、クッサい感じになってないか。それをえい!としわしわのまま干していないか。クリーニング屋の親父さんなら何でも知っているからとにかく出せばいい、と思っていやしないか。冗談じゃない。タグを見よ。下札屋として、そういうことに憤るのは本来の役割の範囲を超えているのかもしれない。洗濯の方法の明記はタグ屋の仕事だ。でも、熱心な主婦しか読まない現状、それは悲しい。やるせない。だから俺は綴る、永久に保存せよ!と。そういう流れなのだと思います。

 

 そういう物語を想像して、俺は横須賀芸術劇場の楽屋で感動しているわけです。泣いてはいません。男の子なので。どうか皆様がその場で開封し、下札を会場や店頭で即破棄、帰りの鮨詰め電車でバッグ同士を擦り合わせてプリントが滅多滅多になる、そういうことがないように願っています。下札を大事に保管して、あとは自由に使って下さい。

 

 

 明日からはじまるツアーがとても楽しみです。こんな下らないことを考えながら、あれから1年7ヶ月ということも思いました。クソのような日常に、生きること、生きていることそのものを愛おしいと思えるようなフィーリングを挿入する。この1ページ、あるいはひとつの段落、たった一行、いや、接続詞の類かもしれない。ただそれだけで、物語の文脈が変わることがある。そんなツアーになったら良いなと思っています。10月11日。

 

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