楽曲について語ること
カテゴリ:日記

 

 アルバム『ランドマーク』から一週間。まあ、作っている側とすれば、毎度最新アルバムは発売と同時にほとんど国民を巻き込んだ現象のようになって様々な雑誌の表紙を独占、連日様々なメディアで取り上げられてメンバーは気を病んで遂にはそれを緩和させるための新メンバーオーディション、挙げ句16人くらいのバンドになってしまってステージ上の立ち位置についてメンバー間での諍いが勃発。それを解決すべく、ジャンケン大会、人気投票券付きCDの発売などをしてこれを解消させるも、その解消法の一つひとつが二番煎じであるにも関わらずテレビ中継されるなどして人気に拍車。ライブでは熱狂的なファンの歓声がメンバー間の会話が聞き取れないほどの音量になり、これが原因で人間関係が悪化。大正琴奏者の桜庭佳子さんを残して全メンバーが脱退、というほど売れたらどうしよう。そういう妄想を膨らませたりもするのだけど、そういうことにはならないものだなー。

 

 そんな瞬間湯沸かし器のように話題にならなくとも(湯を沸かす能力は偉大だけど)、ゆっくりと染み込むように伝わってくれたら嬉しい。

 

 思えば、『ファンクラブ』というアルバムを創っているとき、まあ俺は『ソルファ』が売れたことによるストレス(主に「あんなのロックじゃねぇ」とか「〇〇のパクリ」とかいう言説を真に受けとめ過ぎた)でヤラれてしまって、見てろよコノヤロウと、地獄のようなメンタリティで私生活を送っていた。そんなときにメンバーにずっと言っていたのは、今直ぐインスタントに評価を受けるものではなくて、即時的な一瞬の熱を伝えるものではなくて、聴いてくれたひとの心の奥底をじんわりと温め続けるような、消えない小さな灯りのような、何十年もそれが続くような、そういうアルバムが作りたいということだった。これだけをずっとメンバーに言っていたと思う。で、あまりに同じことを言い過ぎて、このあたりから俺の話をメンバーがあまり聞かなくなり、飲み会にも誘われないようになったと思う。独りうらぶれた居酒屋の片隅で酎ハイを呷り、イカゲソなどのアテを齧りながら、このアルバムを皆が愛してくれるんならば、それこそ事務所が活動資金調達のために用意するようなファンクラブなどいらない、その行為自体を、このアルバムに集う想い自体を『ファンクラブ』と呼ぶのだ俺は、と、そう思ったのだった。

 

 まあでも世の中は、インスタント化に拍車がかかって、発売から1週間もすれば次の話題に移動していく。それに耐え得る傑作を作れよっていうツッコミはあるだろうし、もちろん誰しもが目指すところかもしれないけれど、システムというか関係性というか、大きな枠組みが年々状況に合わせてトランスフォームしていくのは当たり前のことなので、そこに作品性だけで抗うっていうのも、それを即時的な熱量だけで表現するのはとても難しい。情報量も多い。どちらかというと、やっぱりこの作品には熱があるのだと、時が過ぎても消えない何かを作品に宿すことに、俺は集中してしまう。それはやっぱり地味なんだと思う。まあ、分からんならそれで良いとも思う。聞いて欲しいという気持ちはあるけれど、裏腹に理解して欲しいという気持ちは全くなくて、誰かが俺の書いた曲や歌詞に辿り着いて、そこに新しい感情や感覚が生まれたら御の字だと思う。俺がAと書いてAと受け取ってもらう、そういうことではなくて、まあ何とも言えないけれど勝手にやってくれーみたいな、そういう気持ち。ただ、根っこの、言葉以前の、フィーリングは伝わって欲しいとは思う。傲慢かもしれないけれど。まあ、何かを「創って」ひとに聴かせたい読ませたい見せたいなどという行為はどれもそういう傲慢な何かを、程度の差こそあれ含んでいるから、そういうもんかな。

 

 『ランドマーク』というアルバムは、正真正銘のロックアルバムだと思う。今までのアルバムの中でも一番尖っている。一見、角がないように見えて、一枚皮を剥げば鋭利な言葉の刺、皮肉がある。俺がそういうことを書けたのは、メンバーが持っているポップネスによるとことが大きい。彼らは優しい。だから、見るからにトゲトゲしいものにはならない。ドギツイ言葉はそういった彼らのポップネスを隠れ蓑に躍動している。もちろん、俺もその言葉自体がただのドギツさだけをアピールしないように様々な仕掛けをする。言い換えをする。だたチャンネルを合わせた人にはズシリと響くようになっている。刺に見えるように書いている。それでいて、その鋭利な果実の奥の奥、種を割って仁と呼ばれる部分には何を込めたか、ちゃんと伝うように書けたと思っている。それが何かは、書いた本人として、言わないけれど。

 

 皮を剥き、実を食って、その奥。9月19日。

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