川崎マリエン
カテゴリ:日記

 

 

 ベイキャンプというフェスに出てきた。

 

 川崎駅(京急川崎駅含む)から結構離れた埋立て地にあれだけの人が集まっているのは凄いなと思った。埋立て地かつ工業地帯の倉庫群という特色から、ちょっと暗い、ちょっと怖い、ブラっとは行けない、所謂CCBな印象を持っていたのだけど、海沿いに現れた楽園とまでは言い過ぎかもしれないが、いや、完全に言い過ぎたけれども、とても居心地の良いフェスだった。出演しているバンドのラインナップもこのフェスならではで素晴らしいなと思った。また出たい、そう思えるフェスだった。

 

 この地区には川崎マリエンという、ゆでたまご先生の傑作漫画『キン肉マン』に登場するザ・サンシャインを思わせる外見の施設がある。何の施設なのか詳細はよく分からないのだけど、近くの運河に打ち上げられたホオジロサメの剥製が登場するというサメファン垂涎の事件が何年か前にあって、それを見るためだけに一度訪れたことがあった。サメ効果か、家族連れでそれなりに賑わっていた。

 

 そのサメの剥製を見学しているときに発見したのが、このサメの名前を公募する投稿用紙だった。興奮した。アゲぽよー、だった。「川崎マリエン、サメの剥製の名前決定!」という見出しで「名付けたのは横浜市在住の後藤正文さん。ロックバンドの作詞作曲を手掛け、熱狂的なサメファンでもある。今回は敢えて肩書きを隠して投稿したが、見事に当選...」うんぬんと騒ぎになっちゃうかもなー、照れるなー、ブチアゲー、と勝手に当選した際の図を思い浮かべて、鉛筆で力強く用紙に「シャー君」と書いて提出したのだった。決まったな、と思った。サメだからシャーク。だがそこは可愛さをプラスしないとならない。なにしろこれだけ子供が集まってワイワイ言っているのだから、君とかちゃんとかそういう呼び名がいいだろう、なにより呼び捨てはいけない、仮にも海の捕食者として生態系トライアングルの頂点に立つ生き物なのだ。ただし、「さん」だと親しみがない。気軽に見に行ったりしてはいけないのではないかと思われたら、全く意味がない。シャアさん。これではガンダム的な要素がプラスされてしまって、キン肉マンとぶつかり合ってしまう。マリエンだからマリエちゃんとか、そういう短絡的な命名を思い浮かべるひとがほとんどだっただろう。でも、彼、そうサメはオスだ。様を見ろ。ニヤリ。シャー君。完璧ではないか。

 

 当選者には電話で連絡します、ということだった。

 

 待った。待って待って、待った。住所とか、電話番号とか書き間違えちゃったかなー、と不安になりながらも待った。そろそろかな、と思っていたけれども、何ヶ月たっても電話は鳴らず、川崎マリエンのウェブサイトをたずねても、そこにはお役所的なデザインの情報とサービスが掲載されているだけで、サメの剥製の命名のことはおろかサメの剥製が展示してありますという表記すら見つけられなかった。夢か幻の類でも見ていたのではないかと、そういう疑いも持った。このままでは絶望してしまう、世の中の全てを疑って厭になり、駅前のうらぶれた居酒屋で昼間から濃いめの酎ハイなどをあおるような自堕落な生活に没してしまう。あるいは戸越銀座の母、池袋の祖母、西新宿の一匹狼、というような占い師にハマって依存してしまうかもしれない。そういう予感があった。自分の精神衛生を健全に保たなければいけないと思った。なので、ここはひとつ電話してみることにした。

 

「あのー、サメの剥製の命名とか募集してたじゃないですかー。はい。あれって、どうなりましたかね?」そう率直に、川崎マリエンの方に聞いてみた。数ヶ月前に決定しました!という返答だった。あー、そうか、「シャー君」って名前を投稿した人、他にもいたのかー、いやいや俺もです。すみません。後から名乗り出るのちょっとダサいかなー。と思いながら「で、どういう名前になったんですか?」と、不遜なニュアンスにならないようにたずねてみたところ...。

 

「かわジローです!」

 

 えええええええええええええええ!!!という思い出。9月8日。

 

 

2012-09-08 1347061260
©2010 Sony Music Entertainment(Japan) Inc. All rights Reserved.