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忙しさにかまけて、すっかり忘れていた。内装工事も移転も無事に済んだわけだし、上階の水漏れ問題も業者に頼んだし、壁も床もピッカピカだし、地下室で涼しいし、あー、ビール飲もうか。こっそりビール飲んで酔ってないふりして帰ろうか。良いなぁ、夏は。この熱さが麦芽の汁に苦い野草を溶いて発酵させた発泡飲料を美味しくするんだなぁ。なんてヘラヘラしていて、忘れていた。湿度を。温暖湿潤気候であることを。
結果、黴びた。
VOXの15ワットのアンプとYAMAHAのスピーカーの板の部分、分厚いコンパネを貼付けた壁の継ぎ目のあたり、マイクスタンドの一部、などが腐海(©バンアパ荒井君)みたいになってしまった。ん?なんかVOXのアンプがうっすら凍ってる?と思って近づいたら白い黴だった。フサフサしたカマンベールチーズのようにも見えた。全身の毛穴がキューっと収縮して、今まで皮膚から染み出したことのないような液が全身から出た。「マスクをつけなさい」ナウシカの声がしたような気がした。「ダメだ!こっちもやられてる」風の谷の人々がスピーカーのほうで騒いでいた。ここいらでは子供も減った。ワシらはもう老いていくばかりじゃ。腐海を逃れこの地に住みついて百猶予年...。コミック版『風の谷のナウシカ』を読んでいる場合ではなかった。
正直に、抜かった。以前も、真新しいアジカンのスタジオがツアー中に黴びるという事件があったのだった。同じように地下室だった。ゴルゴンゾーラのようになったギターケースを見た。潔と山ちゃんが赤ワインにハマっている時期だった。で、自前で海辺に借りた作業部屋でも、まあ潮風吹くし大丈夫だべ?と横須賀弁で素っ惚けていたら、やっぱりスピーカーが黴びたことがあった。キャッツ(事務所社長)から譲ってもらったスピーカーだったので、一晩中キャッツを恨んだりもした。メールの返信を必要以上に事務的な態度に変更したりもした。そして、まったく懲りずに、同じ過ちを犯してしまったのだった。無念。
というわけで、ホームセンターにチャリンコで乗り付けて、カビや腐敗にめっぽう強いと書かれている塗料とハケ、大量のぞうきん、アルコールスプレー、なんとなく使えそうなブラシなどを買ってきて、そこらじゅう塗料まみれにして塗り狂い、ぞうきんで拭けるものを拭けるだけ拭いて、アンプを分解して天日に干す、という作業をかれこれ半月くらいしている。その間、全くといって音楽の作業が捗らないでいる。もう、黴のことが気になって気になって、撲滅しないかぎりは音楽しません!という自作自演ストライキのような状態になってしまっている。
そして、大量の蜘蛛問題にも悩んでいる。とにかく蜘蛛が沢山いる。足が凄く長くて、動きが凄く遅い。だからまあ、いいか、ってなってしまう。許してしまう。いつでも殺れるという安心感と、家のクモって殺しちゃいけないよね?っていう言い伝えとがないまぜになって、なんとなく見逃してしまう。そうしたら、子供連れみたいな感じで増えはじめた。観光地かここは。と思ってたら、一大繁殖地みたいになってきてしまった。なので、塵取りと箒でお引き取り願うべくドアの外に案内する日々なのだけど、アルバムリリースの忙しさでスタジオに行けない日々が続くものだから、その間に戻ってきてしまって、一向に減らない。参った。
それから、ゴキちゃん問題もある。これは幸いスタジオ内には現れていないのだけれど、通路のあたりでくたばっていることが多い。くたばっているのかと思ったら、急に動き出すからまた怖い。なので、ホームセンターに行ってゴキジェットを買った。ゴキジェットのジェットたるや素晴らしく、とにかくあの勢いで吹き付けられたらどんなゴキちゃんもたまらんだろうと思う。実際、負けを知らない。だけども、勝っても勝っても刹那さを殺せない。なんでこんなにゴキ様と対峙せねばならんのだ。家賃が安いからか、飲食店が近いからか知らんけど、勘弁して欲しい。色から何から、パーフェクトに気持ち悪い。なんだもう、昆虫って。全部キモい。可愛い虫なんているか!ボケ!と渋谷のスクランブル交差点で大声で叫びたい。そういう衝動にかられてもいいじゃないか。
そういったストレスフルな場所で、レットイットビーというような名曲は産まれるのだろうか。黴を駆逐できるのかしら。「なすがままに」ってことでいいのかな。よく中高年の方がレリピーって歌ってるのやめてほしいな。業務用除湿器と配管工事の見積もり書とか見たくないんだけど、見なきゃいけないですよねー。た、た、高いですよねー。そういう悩みで、休日が休日にならない。9月5日。