駅前は沢山の人々で賑わっていた。
私はコーヒーショップでコーヒー購入し、通りに出た。梅雨のジットリと重い空気のなかにも、やはり夏のあのギラギラが微かに息づいている。アイスコーヒーのカップも、あっという間に結露でビショビショに濡れた。
私は通りを眺めるのが好きだ。だからしばらく立ち止まって、あたりを何気なく見ていたのだった。サラリーマンや可愛い赤ちゃんを連れた母親、ジジイ、昼下がりのOLたちや授業をサボタージュした高校生、そしてジジイなどが行き交っている。昼間の街は夜とは別のエネルギーで満ちている。
通りの向こうから、横断歩道を渡っておばあちゃんがこちらにやってきた。杖をつきながら、えっちらほっちらとゆっくり進んで来る。
こんな湿度の高い暑い日は大変そうだなと、ちょっと心配になる。別にいい人ぶりたいわけではない。反射的にそう思っただけの話。大変そうなお年寄りを見て何も感じないほうがおかしいというもの。
おばあちゃんはゆっくりと私の目の前を横切った。
ん?
んん?
おばあちゃん?
それ、杖でなくって竹刀!!!!
そう、おばあちゃんが手にしていたのは杖ではなく、かなり使い込まれた雰囲気の竹刀だった。
危ない。とても危ない。
「おばあちゃん、大丈夫ですか?」の「おば」あたりでズバっと打ち抜かれることになっただろう。「あたしゃまだまだもうろくしてないよ!!」的な科白とともに。
おばあちゃんと竹刀。
そういうお話。(実話)